2019年10月21日月曜日

妊活の終わり

10月の下旬に、不妊治療でお世話になった病院に、凍結胚の廃棄申請と最後のご挨拶に行ってきました。

不妊治療のため、私がこの病院に初めて訪れたのが2014年の秋。あれからはや5年が経ちました。この間に私たち夫婦は顕微授精に挑戦しました。採卵して顕微受精させた胚を凍結し(凍結胚)、この胚を私の体内に戻す方法で、幸いにも2人の子を授かることができました。

凍結胚は合計6個あり、2人を妊娠・出産するにあたり、3個の胚を体内に戻しました。2人目を出産後、残っていた凍結胚は3個ありました。私がお世話になった病院では、凍結胚は1年ごとに凍結を更新するか、廃棄するかを決めなければなりませんでした。更新するには維持管理料が数万かかるので、深く考えずにに凍結を更新し続けることはできませんでした。

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私の場合、更新月が2人目の出産月の翌月だったので、産科の先生(不妊治療の病院とは別)にこのことを相談してみました。結論は、先生も看護師さんも助産師さんも、満場一致で「とりあえず更新したほうがいい。」でした。理由は以下のとおりです。言われてみて、確かにそうだなと思いました。

  • 産後すぐは、ホルモンの状態が妊娠出産していないときと大きく異なるので、大きな決断をすると、後になって考えが変わって後悔することがあるから

ということで、ひとまず1年は更新し、1年間でどうするかをゆっくり考えて決めることにしました。なお、結論として、産科の先生方のアドバイスは的確でした。時が過ぎるにつれて、私は多角的な考えができるようになっていき、1年で考えは大きく変わりました。

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子育てをしながら、夫と話しながら、私たち夫婦はどうしたいのかを考えていった結果、決断はこの3つに絞られました。
  1. 残った3つの凍結胚を使って、早々に3人目の子どもをもうける
  2. 凍結胚を破棄して、子どもは2人で区切りをつける
  3. 凍結胚を更新し続けて、3-4年後に決断を先送りにする

まず、夫も私も、「3は無い。」という意見で一致しました。理由は以下のとおりです。
  • 私が高齢なので、先送りすればするほど妊娠しない可能性が高く、妊娠したとしても私の身体もしんどい
  • 夫も高齢なので、子どもをもうけるなら早いにこしたことはない

すると、1と2、どちらがにするか決断することになります。そこで、私たちは、1にした場合、2にした場合でそれぞれ思うことを洗い出してみました。話し合う場をもうけると、きちんとした意見にしようとしてしまい、心の深いところの本音に迫れないような気がしたので、場は設けず、ブレインストーミングのように、お互いに普段の生活の中でふと思ったことをメモに書き留めていきました。結果、夫も私も、なんとなく2が現実的だと思っていることが分かりました。ただ、下線を引いた部分で私がひっかかっているので、夫は、なにか腑に落ちるアドバイスができればよいのだけれど、と言っていました。

<1にした場合>
〇夫が思うこと
  • 1度目の出産で私が命を落としそうになった。2度目の出産も心配だった。3度目だから無事であるとは限らないし、無事ではなかったらと思うと、自分は嫌だし、2人の子の将来も不安。
  • この年齢になって子どもが抱けるとは思わなかった。3人いたらうれしいけれど、未知の世界。
〇私が思うこと
  • 2人子どもがいて、こんなにかわいいなら、3人いたらもっと賑やかになる。
  • 出産までずっと、お腹の子に四六時中気を配りつづける生活は大変だった。あれをまた経験するのは、正直ちょっと気が重い…。
  • 仕事に復帰するのがどんどん遅れていく。
  • 夫はあと数年で定年になる。その後も働き続けられるかはわからない。最悪私の経済力だけで生活しなければならなくなったら、3人を育てあげられるのだろうか。自信がない。
  • 今の家は、5人家族で住むには手狭。思い切った生活の転換が必要になる。その勇気が私にあるか。ある気がするけど、生活を回すためだけの仕事をせざるを得なくなったら、私がくすぶってしまって子供に悪影響を与えそう。

<2にした場合>
〇夫が思うこと
  • 子どもが2人なら、父親、母親がそれぞれ1人の子を責任もって保護すればよいので、うまくやっていきやすい気がする。
  • 将来設計がたてやすいのではないか。
  • 私のキャリアアップも応援しやすい。
〇私が思うこと
  • 世の中、少子化と叫ばれているのに、2人で区切りをつけてよいのだろうか…。
  • 体内に戻せば妊娠する可能性が高いものを持っていながら、それを自己都合で廃棄するのは、贅沢で我儘なことではないのだろうか。
  • 凍結胚は、体内に戻せば命になるかもしれないもの。それを自己都合で殺してしまうことになる。いいのだろうか。
  • かといって、3人目出産しても、まだ凍結胚が残っていれば、同じ悩みを繰り返すだけ。
  • 少なくとも妊娠や出産では悩んだり苦しまなくていいのかと思うと、正直なところ、ほっとする。



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2019年7月に、私は家族を引き連れ、お世話になった人たちに会いにデンマークに行きました。滞在中、親しくしている3人の女性に、子どもを3人持つことについて聞いてみました。特に親しくしているLさんが言っていた、「家族計画は、最終的には、まずあなた(私のこと)自身を大切にして決めることだと思う。」という意見にはハッとさせられました。世間体や、倫理観や、他人の意見、そういうものに従う前に、自分はどう思うか、何を最も大事にするかをじっくり考えたうえで決断しようと思いました。

Gさん、70代、子ども3人(男・女・男)>
  • 子どもを3人持って、自分のキャリアが思うようにいかなくなったのは事実。→Gさんは元看護師で、学生時代にひとまわり年上の医師だったAさんと結婚し、在学中に子どもができた。子どもを育てていく中で、自身の学業をいったんストップせざるをえなかった。学業を再開しようにも、Aさんの海外赴任への同行や、次の子どもができたりでかなわず…ということがあった。
  • それでもやっぱり振り返ると、総じて、子どもが3人いてよかったと思う。



Gさん、90代、子ども3人(男・男・男)>

  • お手伝いさんがいたから、男の子を3人育てるのはそれほど大変じゃなかった。→うーん、さすがにこれは参考にならない(笑)。でも、このあっけらかんさが、男の子3人の母には必要なのかもしれない…。

<Lさん、50代、子ども2人(男・男)>
  • (「あなたには2人の男の子がいるけれど、もしも私が聞いてもいいことなら、なぜ子どもは2人にしたの?」と聞いてみました。)本当は、子どもは3人ほしかった。3人目も妊娠したけれど、死産だった。→私は、自分の質問の仕方がいかに自分本位だったか知って、Lさんに謝りました。本来「子どもは〇人まで」と決めて実行するのではなくて、「〇人ほしいと思っていて、なんやかんやで結果は〇人」であって、その「なんやかんや」に悲しい背景や人には言いたくない背景もある、ということが、私の中ですっかり抜け落ちてしまっていました。当時、Lさんや家族がどれほど悲しかったかは私には想像がつきません。
  • 家族計画は、最終的には、あなた(私のこと)自身をまず大切にして決めることだと思う。



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2019年8月、親友のSちゃんに会いました。Sちゃんも子どもを2人育てています。私は思い切って、3人目の子どもがほしいと思うか、単刀直入に聞いてみました。Sちゃんはズバリ「絶対いらない。」と断言しました(あまりに即答で思わず爆笑)。Sちゃんの意見は、小さなころから私を見ていたからこその的確な意見でした。
  • 知人に子どもが3人(4人だったかもしれない)いる人がいるけれど、その人は、我が強くないというか、流れに任せる感じでとってもおおらか。あの境地でないと3人以上は無理だと私は思った。
  • C(私のこと)は、絶対自分のやりたいことをしたほうがよい。

ここで、私が悩んでいた以下の2つは、世間体や、倫理観や、他人の意見から出てきたものなので、切り捨てていいと思いました。
  • 世の中、少子化と叫ばれているのに、2人で区切りをつけてよいのだろうか…。
  • 体内に戻せば妊娠する可能性が高いものを持っていながら、それを自己都合で廃棄するのは、贅沢で我儘なことではないのだろうか。

あとは、以下の悩みです。結局、腑に落ちないまま1年が経ち、更新月を迎えました。私たち夫婦は、「凍結胚を破棄して、子どもは2人で区切りをつける」とほぼ決断していましたが、以下のことについては、不妊治療でお世話になった病院の先生に意見を聞こうと思いました。
  • 凍結胚は、体内に戻せば命になるかもしれないもの。それを自己都合で殺してしまうことになる。いいのだろうか。

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2019年10月21日、凍結胚の破棄を申請する書類を持って、不妊治療でお世話になった病院へ行きました。子どもたちを夫に預け、病院へは私一人で行きました。この病院は一般の婦人科も併設なので、子どもを連れていくことは禁止されていないのですが、かつて不妊治療をしていたころ、私は子連れのお母さんを見ると、どうしてもモヤっとした気持ちが生じて、それで自己嫌悪していました。なので、他の方に、私と同じようなモヤっと自己嫌悪をしてほしくなかったのです。



先生には、「受精卵は廃棄するということで心は決まっているが、お腹に戻せば妊娠成立するかもしれない卵を自己都合で廃棄することに、罪悪感を感じる。」と正直に伝えました。



先生の見解は、実に簡潔かつ科学的で、聞いていた私もストンと腑に落ちました。


  • 女性の体内では月一回のペースで排卵があり、その卵が受精しようともしなくとも、卵の質が妊娠に至らないレベルのものであれば、そのまま消失して、月経によって排出される(いわゆる化学的流産とよばれているもの)。なので、その本来は体内にあるはずの卵が、たまたま私の場合は外に3つ出ているだけで、それが妊娠に至らなかっただけと考えれば、罪悪感を感じる事はない。
  • 実際、受精卵が3つあったら絶対妊娠するかというと、そううまくはいかない。さらに私の場合、妊娠に至りそうなグレードの高い受精卵は、もうすでに使ってしまった(私の子どもになっている)ので、その分妊娠の可能性は低い。

なお、廃棄の方法も聞きました。受精卵は凍結してあるので、それを解凍すれば、人体の外では成長できないものなので、そのまま死んでしまうとのこと。後は医療廃棄物として廃棄するそうです。


ここまで先生に聞いて、私はすがすがしい気持ちで凍結胚の破棄を申請する書類を提出できました。先生方にお礼を言い、病院を後にしました。もうきっとこの病院に来ることはないのだろうなと思うと、周りの景色も少し違って見えました。

私の妊活はこれで終わりましたが、子育てはこれからも続きます。あの時の偶然、あのときの決断がつながっていって、今があります。一つ何かが違えば、子どもはいなかったかもしれないですし、一人目の出産で私の命が終わっていたかもしれないです。至ったこの今を大切にします。